高次脳機能障害とは、交通事故により頭部に強い衝撃をうけて脳の一部が損傷し、機能が低下した場合に発生する障害をいいます。頭部外傷により、意識障害を負った被害者のかたが、意識の回復後、認知障害や人格変化などが発生し、社会復帰が困難となることがあります。
そして、高次脳機能障害は、身体的な機能については特段に支障はなく、身体的な介護をする必要はないものの、高次脳機能障害により人格変化が生じているため、日常生活の上でも見守り、声掛けをする必要があるとして、将来の付添看護費が認められることが多いです。
また、高次脳機能障害の後遺障害については、身体的な機能については支障がない (見た目ではわからない) ものの人格に変化が生ずることが多く、その立証資料として介護を行っている近親者の作成する日常生活についての報告書(陳述書)が有力な資料となることが多いです。
高次脳機能障害の後遺障害が発生した事案について、近時の裁判例(名古屋地判平成28年5月25日判決)をご紹介します。
この裁判例は、65歳主婦が自転車運転中に交差点で自動車と出会い頭で衝突した事故について発生した後遺障害(高次脳機能障害)について自賠責保険において2級1号が認定されたものの、事故から約2年後に要介護認定に変更(要介護1まで回復)があった事例です。
被告側は要介護認定に変更があったこと等を理由として、被害者の後遺障害は7級程度が相当であるなどと主張しましたが、裁判所は要介護認定の評価は自賠責保険における後遺障害認定とは制度趣旨が異なること介護サービスの内容を決定するためのものである等から、要介護認定の変更は後遺障害の認定の判断を左右するものではない、と判示しました。
他方で、自賠責保険の認定は、実際に介護を行っている被害者の夫が作成した日常生活状況報告別紙に依拠するもので、その内容に不審な点はないことから、信用できると判示し、自賠責保険の認定と同様、2級1号の後遺障害が認められました。
そして、将来介護費については、被害者は将来的にも随時介護が必要となると推論されるところ、今後必要となる近親者ないし職業付添人による介護の費用は、近親者介護費用として1日6000円、職業付添人介護費用として1日10000円を認めるのが相当であると認定されています。
本判決は、要介護認定は自賠責保険における後遺障害認定とは制度趣旨が異なる旨指摘されている点、高次脳機能障害については日々介護を行っている近親者の作成する日常生活報告書が重視される点で、評価されると考えます。
また高次脳機能障害を主張し、介護費用の金額を争う場合は、近親者の介護状況を記載した陳述書が極めて有用となることが多く、しっかりと作成をしておくことが大切となっています。