後遺障害による逸失利益の算定における労働能力喪失率は、厚生労働省の労働能力喪失率記載の喪失率を認定基準として採用するのが一般です。
しかし、この喪失表はあくまでも参考資料に過ぎないので、裁判所はこれを参考とした上、被害者の年齢・職業・後遺障害の部位程度、事故前後の稼働状況当の諸般の事情を総合して、判断しています。
ここでは併合9級(左肩関節著しい機能障害=10級10号、脊柱の変形=11級7号)の後遺障害が残った歯科医師について喪失率を70%として逸失利益が算定された事例(大阪地方裁判所平成23年4月26日)をご紹介します。
(併合)9級の後遺障害の場合、上記労働能力喪失率記載の喪失率によれば、労働能力喪失率は35%となります。
しかし、同判決は、この被害者は、歯科医師として勤務していたものの、後遺障害により治療行為に危険が生じたことから、勤務先である歯科医院を退職し、今後歯科医として稼働することが不可能となったとし、後遺障害が労働能力に与える影響は極めて大きいとし、労働能力の喪失率は70%と判断しました。
この判決は歯科医師としての特殊性を考慮した事案であり、評価できると思われます。
裁判所は自賠責保険の等級の認定判断を尊重して判断する傾向にありますが、既に自賠責保険において等級の判断がある場合でも、裁判において主張立証に成功すれば、具体的な事案に即して判断され、自賠責保険よりも高い等級で認定がなされる可能性が0ではありません。
あきらめずにしっかりと主張立証を尽くす必要があります。