交通事故により死亡事故が発生した場合、逸失利益(すなわち事故の被害者が事故にあわなければ得たであろう収入)の損害の請求をすることになります。
死亡による逸失利益は、「基礎収入(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」にて算定されます。
そして「基礎収入」をいくらにするかで、逸失利益の請求額は大きく変動しますので、裁判などでよく争いとなります。
それでは給与所得者が転職したばかりで転職先の収入が低い場合に交通事故が発生した場合における「基礎収入」の算定についてお話をしたいと思います。
給与所得者の場合、基礎収入は、事故前に勤務先から得ていた収入を基礎収入とします。
そうすると、転職後の収入は低水準であることが多く、被害者にとっては不利なように思われます。
ただ、他方で、中途採用の場合は、徐々に昇給される可能性があり、将来は通常の水準の給与形態になる可能性が高く、この点について考慮されるべきとも考えられます。
そして、この点について判示したものとしては、大阪地裁平成16年9月10日判決があります。
この裁判例は、34歳の給与所得者が交通事故にあったケースですが、事故が発生した年の5月に退職し、その後別の会社の転職した後、12月に交通事故が発生しています。
そして事故が発生した年の給与支給額は、転職前が1,799,000円、転職後は2,579,000円と合計すると約437万円程度でした。
他方で、症状固定時の賃金センサスの学歴計男子全年齢平均年収額は555万4600円であり、賃金センサスの平均賃金の方が高いことになります。
そこで、基礎収入について、事故前に得ていた年収か、賃金センサスの平均賃金かで争われていましたが、裁判所は、転職後間もない時期に事故が発生したことを考慮に入れて、賃金センサスの平均賃金を基礎とするのが相当であると判断されました。
この事案は、転職直後であり、給与水準が低くされているものの、比較的短期間のうちに昇給が期待できるような場合は、増収を見込んで基礎収入の算定が行われており、評価できると考えられます。