交通事故による傷病により、事故発生日から傷害の治癒(もしくは後遺障害における症状の固定時期)まで就労ができない場合、通常の就労ができないことにより生じる収入減少額を「休業損害」として請求することになります。
かかる「休業損害」は、受傷やその治療のために休業し、現実に喪失したと認められる得べかりし収入金額を請求することになります。
そして、給与所得者の場合、原則として事故前に勤務先から得ていた収入を基礎とします。
一般的には事故前3ヶ月前の収入の金額の平均額を採ることが多いとされ、実際にも、保険会社が利用する定型的な休業損害証明書も同様の扱いをしています。
なお、この収入額というのは、いわゆる手取り額(税金、公的年金の保険料を控除した残額)ではなく、税込額とされています。
それでは、例えば被害者がまもなくパート社員などから正社員になることが予定され、昇給が見込まれているような場合に事故が発生した場合は、どうでしょうか。このような場合に事故前の収入を基礎とすると不当なように思われます。
このように、被害者がまもなく正社員となることが予定されていた等の事情が存在し、収入の金額が事故時のそれよりも増加する蓋然性があったことが立証された場合は、その時期以後について増額された金額をもって休業損害が算定されると考えられています。
参考となる裁判例ですが、昇給を考慮して基礎収入を認定したものとして、東京地判平成16年12月21日判決は、32歳男性銀行員につき、前年度年収は639万円でしたが、同期の社員のその後の昇給状況から、症状固定日までの年5%の上昇を前提とした推定年収により休業損害を算定した事案があります。
但し、あくまで収入の金額が事故時のそれよりも増加する蓋然性があったことが立証される必要があり、請求する側でそのような証拠を準備する必要があり、容易に認められるものではないことに注意が必要です。