高次脳機能障害とは、交通事故により頭部に強い衝撃をうけて脳の一部が損傷し、機能が低下した場合に発生する障害をいいます。
頭部外傷により、意識障害を負った被害者のかたが、意識の回復後、認知障害や人格変化などが発生し、社会復帰が困難となることがあります。
高次脳機能障害は、身体的な機能については特段に支障はなく、身体的な介護をする必要はないものの、高次脳機能障害により人格変化が生じているため、日常生活の上でも見守り、声掛けをする必要があるとして、将来の付添看護費が認められることが多いです。
今回は高次脳機能障害の後遺障害が発生した事案について、近時の裁判例(東京高判平成28年12月27日判決)をご紹介します。
この裁判例は、82歳女子家事従事者のバスに乗車中に、急ブレーキで転倒し、受傷し、後遺障害が残存した事案(くも膜下出血、高次脳機能障害、自賠責3級3号)です。
入院付添看護費について、被害者の入院中、日常生活動作の相当部分は自立とされていたものの、第2回入院においては、第1回入院時と比較して日常生活動作を行う能力及び認知機能の低下が認められ、第1回入院時より付添看護の必要性が高く、付添の負担も大きくなっていたとものと認められること、被害者の家族も、第2回入院の際には家族の付添が困難な日には家政婦に付添を依頼していたことなどを考慮し、付添看護の日額ついて、第1回入院時については4000円、第2回入院時については6500円と認めるのが相当であるとしました。
また、退院後の自宅付添費については、症状固定前の通院期間中(平成25年1月26日から同年10月11日までのうち、入院26日を除いた223日間)、食事、排泄、着替え、入浴等の日常生活動作について自立していたものの、短期記憶に問題があり、日常の意思決定を行うために認知能力もいくらか困難な状態にあるとされ、危険な行為についての判断能力が低下してため、家族の目の届かないときに1人でインスタントラーメンを作ろうとして鍋ではなく陶器をガスコンロにおいて直火で加熱したり、ガスコンロの火を消し忘れたりするなどの危険な行為に及んだことがあったこと、また排泄後のトイレの水洗の使用や手洗をほぼ毎回失念するため、その都度、家族が声を掛けて確認するか、代わりに水洗を使用したりしなければならなかったこと、服用すべき薬の種類や服用の機会を判断することができず、毎食後家族が服用の指示をしなければならなかったこと、入浴や洗顔の際の湯温の判断や服用の機会を判断することができず、高温の湯を出してやけどをするおそれがあるため事前に家族が湯温を調整しなければならなかったこと、長男夫婦は自ら又は家政婦に依頼して看視及び介助を行っていたことが認められるなどから、食事、排泄、着替え、入浴等の日常生活の大部分について自立していたが、判断能力や短期記憶等の低下により、長時間1人にしておくと、調理に火を用いるなどとして危険な行為に及ぶおそれがあるほか、薬を服用することを忘れたり、気温の変化に合わせて衣類や室温を調整することができなかったりするために健康状態を害するおそれがあり、日常生活に近親者等による看視や声掛けを中心とする介助が必要であったことが認められ、自宅付添介護費は日額4000円と認めるのが相当であるとしました。
さらに、将来介護費については、症状固定後も、看視、声掛けを中心とした介助が必要であると認められ、その将来付添費については、日額4000円として、平均余命9年について1037万7388円を認めるのが相当であるとされました。
そして休業損害については、事故当時82歳であること、長男夫婦と同居していたことからすれば、家事にかかる休業損害について女子の全年齢平均賃金によることは相当ではなく、平成25年賃金センサス女性70歳以上平均賃金変額283万5200円の8割である年額226万8160円によるのが相当であるとして基礎収入を認定し、症状固定までの259日間について休業損害をみとめました。
本件は、80歳を超える女子家事従事者について高次脳機能障害が発生した件で、自宅付添費及び将来付添費について第1審判決から増額をして認めるとともに(第一審判決ではそれぞれ2000円とされていました)、主婦としての休業損害についても認められた点が評価されるといえます。