高次脳機能障害とは、交通事故により頭部に強い衝撃をうけて脳の一部が損傷し、機能が低下した場合に発生する障害をいいます。
高次脳機能障害は、身体的な機能については特段に支障はなく、身体的な介護をする必要はないものの、人格変化が生じているため、日常生活の上でも見守り、声掛けをする必要があるとして、将来の付添看護費が認められることが多いと言えます
本日は、高次脳機能障害の後遺障害が発生した事案で、将来介護費について判示した近時の裁判例(福岡地裁平成31年3月25日判決)をご紹介します。
この裁判例は、63歳男性のトラック運転手が高速道路を大型貨物車で走行中に後続の大型貨物車に追突され、頚随損傷等傷害を負った事案(高次脳機能機能障害、自賠責3級3号)です。
この事案では、将来介護費について、男性の高次脳機能障害についてやや増悪傾向にある印象であること、無気力と易怒性が認められること、通院する際も自宅で過ごす際も生活の全ての局面で、妻による見守り、声掛け、準備等が必要であり、妻による介護が難しい場合には、介護の専門家による介護が必要であることなどから、症状固定時の年齢である65歳から平均余命(19年)まで介護が必要であると言わざるを得ないと判示されました。また男性が65歳から67歳までは妻による介護、68歳以降は職業付添人による介護を行い、妻による介護は1日あたり5000円、職業付添人による介護は1日あたり8000円とするのが相当であると判示されました。
また後遺障害逸失利益については、男性は、本件事故により高次脳機能障害の後遺障害を負ったこと、記憶力の低下、無気力が認められること、日常生活全般に介護が必要であること、事故前の平成25年の所得は304万2633円であることが認められることから、基礎収入は304万2633円、労働能力喪失率は100%といえるとし、また労働能力喪失期間は70歳までの5年と認めるとして、実収入をベースに基礎収入を認定し、70歳までの5年間100%の労働能力喪失を認め、約1317万円の逸失利益を認めました。
本件は事故による高次脳機能障害が原因で無気力や易怒性が発生し、身の回りの動作のほとんどにつき母らによる声掛けや身守りを要する状態であることを根拠として、将来介護費が認められた事案として評価されると考えられます。